私好みの新刊 201811

13800000000ねん きみのたび』    坂井治/さく・え   光文社

  「きみは 「げんし」っていう ちいそな つぶで できている。 ………

きみの からだは むすうの げんしが あつまって できているんだ。」

ページをめくるとこのような切り出しで,この本は始まる。

「きみが〈うちゅうりょこうに いってみたい〉って おもうのは、/むかし、きみが うちゅうを 
とんでいたからかもしれない。/きみが ひとつぶの げんしだったころ、/うちゅうは 
ほし ひとつない まっくらやみだった。」

  138億年前の一粒の原子がこの物語の始まりである。星も無数の原子でできて宇宙が誕生した。

その中で,一粒の原子が隕石に乗せてもらってたどりついた星は生まれたばかりの地球だった。
やがて,マグマの星だった地球がだんだん冷えて海ができた。水の中でゆらゆらしていた「きみ」は
細胞になった。やがて細胞がつなぎ合い大きな体が生まれた。陸地を歩くことのできる体にもなり森
でくらすこともできるようになった。「きみ」は大きな恐竜にはなれなかったが,小さな生き物で暮らし
ていた。おかげで,「きみ」は恐竜が絶滅するような危機も生き延びることができた。「きみ」は,やが
て森から抜け出して人間になった。人間はいろんなものを組み合わせて道具を作り生活を豊かにし
てきた。人間になって災害や戦争にも出会ったが,「きみ」はだれかに助けられて今に生き延びている。

 「たびの とちゅうの どれか ひとつでも たりなかったら、/きみは このせかいに うまれなかった
かもしれない。」「ひとつぶの げんしだった きみは、/
138おくねんを かけて/パパと ママの
あかちゃんになった。」

 読者の「きみ」を原子とうまく結びつけて壮大な命の歴史を物語っている。国立科学博物館の展示
をもとにしてできた本だとか。スケールの大きな話である。       
2018,4  1,600

 

『どしゃぶり』   おーなり由子/ぶん  はたこうしろう/え   講談社

 著者のおーなり由子さん,はたこうしろうさんは,どちらもむ絵本作家である。この本も「創作絵本」と
なっている。科学読み物としてとらえるかどうか議論もあるかも知れないが,科学絵本として取りあげて
みた。科学の世界には,人間が長い歴史の中で明らかにしてきた自然の論理と多様な自然界の描写
がある。それともう一つ大切な観点として自然を見つめる感性がある。動物としての感覚以上に,とぎ
すまされた五感が感性を高める。この本はそうした感性を表現した絵本とみる。 

表紙をめくると「ぱらぱらっ/じゃばばば/ぶっしゃーん。/…………………/」と雨の音。

「あめのこえが きこえるよ。/どしゃぶりと あそぼう!」とある。「あめのこえ」と書かれると,
 「どんな声かな」と耳をそばだてたくなる。

 場面では,暑い夏の日差しの後,もくもくと入道雲。はじめは,「ぼつっ!ぼつっ!ぼつっ!」

 しばらくすると「そらの においが するぞ」「じめんの においが するぞ」とかさを広げる。

 「とん ととん ぼつんっ / ばら ばら ばらっ / かさの たいこだぁ!」 つづいて

「ずだだだだだだだ ぼぼぼぼぼぼぼ ぼぼぼぼぼ」「うっるっさ―――い!」

といった調子で音が飛び出してくる。だんだんと雨が激しくなってくる。文字も雨のしずくと共に大きくなる。
精一杯の音の表現が続く。それにあわせて,雨も水玉となって降り注ぐ。

 「ぼくのところに あめのこえが ふってくる。」

そうしてついに大きな雨粒と遊ぶ「ぼく」がいる。飛び散る雨粒は楽しい雨粒に変わる。

躍動感のある挿し絵がいっそう雰囲気を高めている。     
                                                  
2018,6刊 1,400
                      2018年11月